労災保険と自賠責保険で異なる後遺障害等級が認定された方の例
- 相談者
- 女性(70代)/ パートタイマー / 大牟田市在住
- 事故状況
- 交通事故(通勤災害)
- 傷病名
- 左肩打撲傷、顔面打撲傷、左上腕骨挫傷、右橈骨遠位端骨折、左膝部挫創、左肩腱板損傷等
- 活動のポイント
- 保険会社との示談交渉
- サポート結果
- 適正な賠償額の獲得
- 主な項目
- 金額
- 後遺障害慰謝料
- 325万円
- 逸失利益
- 119万円
- 傷害慰謝料
- 170万円
- 休業損害
- 31万円
- 入院雑費
- 3万円
- 最終支払額
- 510万円
相談・依頼のきっかけ
大牟田市在住の70代の女性が、通勤のため自転車に乗って道路を直進していたところ、後ろからきた自転車に接触され、左側に転倒し左上下肢と右手首を強打するという事故に遭いました。
女性は、すぐに病院を受診し、左肩打撲傷、顔面打撲傷、左上腕骨挫傷、右橈骨遠位端骨折、左膝部挫創、左肩腱板損傷等との診断を受け、骨折部位に対しては骨接合術がなされました。
その後はリハビリ治療を続けていましたが、左肩について事故直後より痛みが強く残存しており、ステロイド注射も打ちました。
事故から1年弱経過した頃に抜釘術がなされ、その後、事故から約1年半後に治ゆ(症状固定)となりました。
後遺障害等級については、労災保険では11級、自賠責保険では12級という異なる認定結果が出ている状況でした。
今後の相手方保険会社との示談交渉や後遺障害等級の妥当性等についてご相談されたいとのことで、当事務所にご来所いただきました。
たくみの活動
通勤途中に交通事故に遭った場合、通勤災害として労災事故という性質も帯びるため、労災保険と自賠責保険の双方の利用が可能となることから、この2つの保険の性質、関係性を正しく理解し、事案に応じて使いこなしていく必要があります。
本件では、ご相談をいただいた時点で、後遺障害に関して、上記のとおり、労災保険では11級、自賠責保険では12級という異なる認定結果が出ていました。
労災保険と自賠責保険は、それぞれが独立した保険であるため、各々が独自に後遺障害の等級認定を行いますが、自賠責保険が、その支払基準において、等級の認定は原則として労災保険における障害の等級認定の基準に準じて行うと定めているため、多くの場合は、同じ等級がつくことになります。
もっとも、労災保険と自賠責保険では、その制度趣旨が異なることから、本件のように、異なる等級が認定されることもあります。
当事務所では、まずは、福岡労働局の情報公開係に対し、労災保険の後遺障害の認定結果に関し詳細に記載された書類(障害(補償)給付実地調査復命書等)を開示請求し、その内容を確認した上で、相手方保険会社との示談交渉に臨みました。
弁護士によるサポート結果
示談交渉においては、やはり、労災保険と自賠責保険とで異なる等級が認定されている点が焦点となり、相手方保険会社は、自賠責保険が認定している12級前提で損害を算定すべきであるとの見解でした。
この相手方保険会社の見解には、一応の合理性があります。
というのも、労災保険には、迅速かつ公正に使用者に代わって必要な保険給付を行うことで被災労働者を保護するという機能がありますが、これに対し、自賠責保険は、被害者保護という機能ももちろんあるのですが、加えて、損害賠償における適正な賠償という観点もあり、被害者保護のみを果たせば良いといわけにはいかず、被害者と加害者間の公平性という点も考慮される必要があります。
このような両保険の性質の違いを踏まえると、任意保険会社との示談交渉はあくまで損害賠償の交渉であるため、この交渉において、労災保険の認定よりも自賠責保険の認定を尊重すべきとする任意保険会社の見解も、自然な論理といえます。
そこで、当事務所としては、11級前提での損害算定に固執することはせず、柔軟に交渉するという方針をとり、結果として、中間値である11.5級程度での損害算定や等級とは無関係な過失割合に関して当方に有利な割合で合意できる見込みが立ったので、裁判外の示談で解決することになりました。
本件について、仮に裁判に移行していた場合には、12級前提での損害の算定や過失割合でより不利な認定となっていた可能性も相当程度あったと考えられますので、柔軟な態度で交渉に臨んだことが、結果として功を奏したものと考えています。
弁護士の所感・解決のポイント
上記のとおり、労災保険と自賠責保険では、その制度趣旨が異なるため、異なる認定結果が出ることがありますが、一般的には、労災保険の方が高い等級がつきやすいと言われています。
任意保険会社は、自賠責保険の判断を尊重することが多く、労災保険で認定された等級を前提に合意に至ることは容易ではありませんが、事案に応じて、柔軟かつ臨機応変に交渉を行うことが大切であると思われます。
必ずしも、労災保険の認定等級に固執した交渉を行うことが、良い結果をもたらすとは限りません。
また、そもそもですが、損害賠償の交渉においては、労災保険及び自賠責保険による等級の認定が大きく影響するため、交渉の前段階として、各保険に、適正な等級認定をしてもらうということも重要となります。
本件は、既に各保険による認定がなされた後での相談ではありましたが、認定がなされる前のできる限り早い段階で、労災保険・自賠責保険に精通した弁護士にご相談されることをおすすめ致します。